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タツオは掴(つか)みどころのない少年を見つめた。近衛(このえ)四家の第一席を占める天童家の切り札とされる男だった。まだこの不思議な銀の目をした新任少尉の底は見えていなかった。
「天童少尉にはぼくの副官になってもらう。万が一のことがあったら、きみが指揮をとってくれ」
無表情にジャクヤがいった。
「了解や」
残り時間は三分だった。カーキ色の軍用トラックがやってきて、80式軽機関銃と72式対人狙撃銃が下されていく。どちらも本物の銃の中身を模擬戦用の弱レーザーシステムに換装してある。
タツオは命じた。
「塹壕はもういい。狙撃班、分隊支援班、各自の銃の用意を始めてくれ」
もう時間がなかった。膝(ひざ)ほどの深さの簡易塹壕ができている。掘り返した土は敵側に向かって積んでいるので、中腰なら歩けるほどの深さがある。
「天童少尉、ちょっときてくれないか」
タツオは戦闘ネットワークの通信を切ると、塹壕から出た。遠くにこの演習場名物のススキの銀の波が揺れ、さらに向こうには日乃元唯一無二の不二山が見事に左右対称の稜線(りょうせん)を描いている。タツオは親密な雰囲気を強調したくて、わざと砕(くだ)けた口調にした。
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