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こんなふうに家庭を作れるのに、どうして彼は自分の母親と自分を捨てたのだろう。どうして努力をしてくれなかったのだろう。 どうして腕に抱かれているのは自分じゃないのだろう。どうして砂浜で待っているのは母ではないのだろう。 「ここなら、太一も来てくれると思ったんだ」 「は?」 「お前を思い出すときは、いつもこの島で笑いながら海で泳いでいる顔だったから」 「それは、ここにしか来なかったからだろ。しかも一度きりだし」 「そうだな。お前には本当に申し訳ないことをした。寂しい思いばかりさせて。父親らしいこと一つしてやれなかった」 「何をいまさら」 夫婦のことはよく判らない。 未だに離婚の原因については、詳しく聞いてない。 知っているのは、恐ろしく父親の仕事が忙しかったということだ。出張ばかりで、家にはたまにしか帰ってこなかった。 「ダメな父親だとわかっていながらも、でも心のどこかで仕事なのだから家庭をおざなりにしても当然だと思っていた。だが、それは勝手な解釈だと気づいたときには遅かった。たまに会っても、お前はもう目も合わせてくれなかった」 「俺は別に謝って欲しいわけじゃないから。今日だって、母さんに言われて仕方なく来ただけだ」
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