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陽介が、砂浜に座り込んでぶーと膨れる。
親父が紙パックのりんごジュースを、わざわざ白い紙コップに移した。
自分のビールも紙コップに注ぐ。
「ほら、パパと同じジュースだ」
自分も屈みこんで陽介にビールを見せると、りんごジュースのコップを手渡した。
「さ、こういうとき、なんて言うんだっけ?」
父親が促すと、陽介が楽しそうに紙コップを差し出した。
「かんぱーい」
微笑ましい親子を眺めながら、太一は言葉を失くしていた。
――こいつは誰だ?
八年前とは、目を疑いたくなるような変わり様である。少なくとも、自分にはこんなふうに構われた記憶がなかった。
自分の覚えている父親は、わざわざ子供の機嫌を取るために、自分のビールをコップに移すような人じゃない。太一の機嫌が悪くても、気が付きもしなかった。
親子で出かけた記憶も一つだけ。
母親と離婚をする二年前――、今から十年前、八歳の太一を連れて、この猿島にきたぐらいだ。
「太一君、焼けたのからどんどん食べちゃって。パパ、陽介に野菜も食べさせてね」
放心状態のまま、焼きあがる肉を黙々と食べる。なんの味もしなかった。
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