【12】

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そっと背中を離した橘くんが、カツンと靴音を響かせて真っ直ぐに体を向き合わせる。 「ついさっき、兄から電話があったんです。今から千夏が帰るからって」 だからここで待っていたと笑った彼の顔が、ほんの少し安心しているように見えて、胸の奥がきゅっとなった。 俺はいつも、必要とされることだけを考えてきた。 誰かに必要とされ、愛されることでしか、自分の価値を見出せなかったから。 でも、それじゃいつまで経っても進めないんだって。 ちゃんと欲しいものに手を伸ばして、必要なんだって、言わなきゃ。 「お帰りなさい、蓬莱さん」 橘くんの、君のその温かさが、俺には必要なんだって。
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