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そっと背中を離した橘くんが、カツンと靴音を響かせて真っ直ぐに体を向き合わせる。
「ついさっき、兄から電話があったんです。今から千夏が帰るからって」
だからここで待っていたと笑った彼の顔が、ほんの少し安心しているように見えて、胸の奥がきゅっとなった。
俺はいつも、必要とされることだけを考えてきた。
誰かに必要とされ、愛されることでしか、自分の価値を見出せなかったから。
でも、それじゃいつまで経っても進めないんだって。
ちゃんと欲しいものに手を伸ばして、必要なんだって、言わなきゃ。
「お帰りなさい、蓬莱さん」
橘くんの、君のその温かさが、俺には必要なんだって。
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