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「うん、蓬莱。珍しい苗字だよね」
「そのおかげですぐに覚えられます。店に来られた時は、俺の名前、あ、橘 啓太って言うんですけど、俺の名前言ってください。ただのバイトなんで何の力もないですけど」
「それじゃあ意味ないよ」
くつくつと肩を揺らし、彼がくしゃりと表情を崩す。
夢にまで見た彼が、目の前にいる。
俺相手に笑って、話しかけてくれる。
そんなどうしようもない幸福感で、胸の奥が熱い。
今度こそ、彼を逃したくない。
「それじゃあ、次に会えるのを楽しみにしてるね」
だけど彼はあっさりと手を振って、路地を抜けてしまう。
名前を言ったってきっと、彼は店には来ない。
結局また、彼との“次”なんて訪れない。
「待って……っ」
ようやく繋いだ細い糸なんて、簡単に千切れてしまうから。ここで彼を見失いたくない。
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