407人が本棚に入れています
本棚に追加
「蓬莱、さんっ」
「わっ」
ギリギリで届いた指が彼のカーディガンを引っ張る。くんっと、仰け反った彼の体。
そろりと振り返った彼は、俺を見るなり目を丸くした。
「え、なんで」
「ごめんなさい、俺本当は」
「夏? どうした?」
俺の言葉を遮った、聞き慣れない低い男の声。
蓬莱さんのカーディガンを掴んだままの俺を見下ろし、その男は訝しむように眉を寄せた。
「誰、この男」
「あ、ただの知り合いっ。久しぶりだから声掛けてくれたんだよね。でもごめん、俺今から用事あるから。またねっ」
じとりと見据えてくる男の目に浮かんだ、明らかな牽制の色。そして慌てたような蓬莱さんの様子。
これを見ても分からないほど、鈍くはない。
最初のコメントを投稿しよう!