【1】

12/19
前へ
/202ページ
次へ
「蓬莱、さんっ」 「わっ」 ギリギリで届いた指が彼のカーディガンを引っ張る。くんっと、仰け反った彼の体。 そろりと振り返った彼は、俺を見るなり目を丸くした。 「え、なんで」 「ごめんなさい、俺本当は」 「夏? どうした?」 俺の言葉を遮った、聞き慣れない低い男の声。 蓬莱さんのカーディガンを掴んだままの俺を見下ろし、その男は訝しむように眉を寄せた。 「誰、この男」 「あ、ただの知り合いっ。久しぶりだから声掛けてくれたんだよね。でもごめん、俺今から用事あるから。またねっ」 じとりと見据えてくる男の目に浮かんだ、明らかな牽制の色。そして慌てたような蓬莱さんの様子。 これを見ても分からないほど、鈍くはない。
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

407人が本棚に入れています
本棚に追加