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掴んでいたカーディガンが、するりと指先をすり抜けていく。 遠ざかる背中を、今度は追いかけられなかった。 「……なんだよそれ……」 ホテル街に消えた2人がどうなるかなんて、考えなくても分かる。 きっとあの男は、蓬莱さんの細い体を好き勝手に貪り、彼もまた、それを喜んで受け入れるんだろう。 俺はまた、指を咥えて見ているだけ。 「……帰ろ」 ここに突っ立っていたって何も変わらないと、重たい足を引きずるように歩き出す。 隣を過ぎていく酔っ払いの声が、やけに耳を刺した。
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