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翌日の昼。 昨夜のことをまだ引きずる重たい気分を変えようと、買い物に出かけたのが20分前。 14時を示す携帯片手に、買い込んだクレープの材料を揺らしてマンションに入る。 こういう時は甘いものに限るし、料理をしていれば面倒なことを考えなくてもいいから。 なんて、なんとも女々しい理由を頭に描きながら、エレベーターのボタンを押した。 6階建ての小さなワンルームマンションだけど、住人同士の交流はほとんどなく、引越しの挨拶も簡単に済ませた俺は、隣人の顔もよく覚えていない。 不在だった人もいて、その人には結局挨拶は出来なかったんだっけ。 ポン、と軽い音を立てて扉の開いたエレベーターに乗り込む。3階のボタンを押そうとした時、向かいからパタパタと足音が聞こえてきて。 「っ、すいませんっ、乗りますっ」 文字通りエレベーターに飛び込んできた人が、荒い息のまま頭を下げる。そんなに急がなくても、ここのエレベーターならすぐに来ただろうに。
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