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「何階ですか」
それまで俯いていた男が、ふと顔を上げる。
その瞬間、目を丸くしたその人に負けないくらい、俺の目も丸くなっていたことだろう。
「君、昨日の……」
昨日と同じ格好をした蓬莱さんが、言葉を探すように瞳を揺らす。最後に居合わせた場面が場面だし、彼も気まずいのだろう。
「偶然ですね、蓬莱さんもこのマンションの?」
「うん、そう。君もなんだね……」
軽い音で扉を閉じ、ゆっくりと上っていくエレベーター。3階なんてあっという間だろうに、沈黙が重いからだろうか、やけに長く感じる。
何か、話題を振った方がいいだろうか。
ひたすら続く沈黙に、そんなことを思った時だった。
「昨日は、変なとこ見せてごめん」
ゴウンゴウンと響くエレベーターの音に、蓬莱さんの声が重なった。
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