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木々の緑が色濃く揺れる6月。 専門学校への進学と同時に始めた1人暮らしも、すでに2ヶ月目を迎えた。バイトにも慣れ、ようやく新生活に馴染んできたある土曜の夜。 風邪で寝込んでいる友達の代わりに出たバイトの帰りに、俺は、人生初のカツアゲを体験した。 「お兄さん、今いくら持ってるの?」 噎せるくらいの香水の香りに、毛虫のような睫毛をしならせる女が3人。 ちょうどバイト先の飲食店を出たところで彼女たちに遭遇し、あっという間に路地裏へ。 恐怖心は特にないけれど、解放されるまでのことを考えて気が滅入った。 「ほとんど持ってないです」 なんて、3000円ほど入った財布を隠すように、カバンの肩紐をぎゅっと握る。 まぁ、目敏い彼女たちならすぐに気が付くだろうけど。
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