【1】

6/19
前へ
/202ページ
次へ
やっぱり俺、どこかでこの人に会ったことがある。 絶対に知っている顔なんだけど、どこでーー。 「うるさいっ、偉そうに言わないでっ」 懲りずに彼女が腕を振り上げる。 ぱっと目を丸くしたまま動きを止めた彼に、俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。 「やめろって言ってるだろ。見逃してくれるって言うんだから、さっさと帰れ」 「っ……なんなのよっ」 ギリッと歯を軋ませた女は俺の腕を振り払い、残りの2人を囃し立てて路地を走り抜けて行った。 バタバタと慌ただしい足跡が消えた途端、路地はシン……と静まり返る。 何か、言わないと。 頭の中で掛ける言葉をシュミレートする俺に、男はふっと息を吐いた。 「大丈夫だった? この辺りの治安って良くないから、気を付けないとダメだよ」
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

408人が本棚に入れています
本棚に追加