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薄手の長いカーディガンのポケットに手を突っ込んだ男が、ちらりと視線を寄越す。ふわりと風に揺れた髪の隙間から小さな耳が覗いて、鎖骨上のホクロが目に飛び込んだ。 「あ」 「ん? なに?」 思わず飛び出した声は掠れて、男の問い返す言葉が耳をすり抜ける。 上部がわずかに凹んだ、小さなハート型のホクロ。 どこかで見たとか、そんな話じゃなかった。 この人は、俺がずっと探してた、高槻 千夏その人だ。 「なに、変なものでも付いてる?」 キョロキョロと自分の体を見下ろしながら、男は居心地悪そうに眉を寄せる。 どうしよう、彼はきっと俺のことなんて覚えていない。なのに本当のことを告げれば、彼は多分、警戒してしまうから。 「あー……や、どこかで、お会いしたかなぁと……」 俺は、知らないフリをすることにした。
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