408人が本棚に入れています
本棚に追加
薄手の長いカーディガンのポケットに手を突っ込んだ男が、ちらりと視線を寄越す。ふわりと風に揺れた髪の隙間から小さな耳が覗いて、鎖骨上のホクロが目に飛び込んだ。
「あ」
「ん? なに?」
思わず飛び出した声は掠れて、男の問い返す言葉が耳をすり抜ける。
上部がわずかに凹んだ、小さなハート型のホクロ。
どこかで見たとか、そんな話じゃなかった。
この人は、俺がずっと探してた、高槻 千夏その人だ。
「なに、変なものでも付いてる?」
キョロキョロと自分の体を見下ろしながら、男は居心地悪そうに眉を寄せる。
どうしよう、彼はきっと俺のことなんて覚えていない。なのに本当のことを告げれば、彼は多分、警戒してしまうから。
「あー……や、どこかで、お会いしたかなぁと……」
俺は、知らないフリをすることにした。
最初のコメントを投稿しよう!