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言っていることが飛んでる自覚はある。だけど、彼の足止めになるのなら、なんだって良かった。 せめてもう少し、彼との繋がりが欲しい。 「本当? でも顔なんて、すぐに忘れるでしょ?」 「忘れませんけど……念のためにお名前伺っててもいいですか? そのほうが確実ですから」 なんて、しれっと名前を聞き出そうとした俺に、彼がぷっと吹き出した。ついで、目元がニヤニヤと緩む。 どうやら、俺の魂胆なんてだだ漏れらしい。 「蓬莱 千夏です、ちゃんと覚えておいてね」 「ほうらい……?」 にっこりと笑う彼の言葉を繰り返しながら、顔が強張っていくのが自分でも分かった。 俺の記憶では、彼の苗字は高槻だったはずなんだけど。覚え間違いだろうか。
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