現場からは以上です

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 陽もとっぷりと暮れ、午後八時に帰宅する麻衣子。疲れた身体を引きずるように、アパートの扉を開く。すると案の定、せんべい布団の上で、直人は酒をかっくらっていた。  疲れた身体に追い討ちをかけるように、絶望感が麻衣子を支配する。これまでは、夫が立ち直ることを信じて支えてきたが、もう麻衣子の精神力は限界を迎えていた。 「もう、いい加減にしてよ!」  麻衣子は、今までの鬱憤を晴らすかのように、直人に詰め寄った。しかし直人は、知らぬ顔をして酒を飲み続けた。  そんな直人に怒り心頭の麻衣子。鞄から一枚の紙を取り出し、直人の眼前へと突き付けた。 「離婚してください」  麻衣子が手にしているのは離婚届。既に、麻衣子の名前も書かれ、判もつかれていた。  そう、麻衣子は離婚をして、また再び、夢を追い掛けたかったのだ。直人と結婚してなければ、自分は今頃、ニュースキャスターとして活躍していたのかもしれない。いや、今からでも遅くはない。また、アナウンス学校へ通い、その夢を叶えるのだと考えていた。そして、自分がそうなるには、夫は邪魔な存在だと判断したのだ。 「なんだこりゃ」  酔った虚ろな目で、突き付けられた紙を見る直人。そして、それが離婚届だと認識すると、その顔色をみるみると変え、麻衣子から離婚届を奪い、そのまま破り捨てた。 「ふざけんじゃねえよ!」  一升瓶を振りかざし、暴れ回る直人。戸棚から物が散乱し、食器が割れ、もう麻衣子は、どうしていいのかわからない。  ひとしきり暴れると、直人はにやけながら、麻衣子ににじり寄った。だらしない無精髭。薄汚れたタンクトップにトランクス。この時、麻衣子の身体は、視界に入る夫の姿を完全に拒絶していた。  麻衣子は、ふとテーブルの上にある、硝子製の灰皿に目がとまる。麻衣子は、その灰皿に飛び付き、夫の顔面に目掛け振り下ろした。  すると、鈍い音と共に、直人はうめき声をあげのけ反って倒れた。そして、さらに麻衣子は、追い討ちをかけるように、鼻血を出してもがいている、直人の頭に灰皿を振り下ろした。  何度も、何度も何度も──。
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