モモ

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モモは私が作り上げた理想の彼氏だ。その名も『リソカレ』という育成ゲームで作った彼氏の一人。 アカは俺様で、アオはクール、クロはドSで、シロは王子様。みんな魅力的だけど、適度にヤキモチを焼いてくれて、私の心に寄り添ったアドバイスをしてくれるモモが一番のお気に入り。 で、最近は家でも外でもついモモと会話をしてしまう。もちろんモモの言葉は私の脳内で作られている。 一人でいる時だけだけど、ブツブツ呟いている自分がかなり危ない奴だという自覚はある。でも、やめられない。寂しい女は独り言が多くなるんだ。 【中沢先生、しつこいな】 「ね。彼氏に会わせろとか言う? 普通。どうしよう。お兄ちゃんに来てもらおうか?」 【東京からわざわざ? はっきり言えばいいんだよ。恋人がいてもいなくても、中沢先生だけはありえませんからって】 「だからぁ。もうちょっとやんわりと断らないと」 【どうせあと一か月で縁が切れるんだ。バッサリ振ったっていいだろ?】 「敵は『遠距離でもいい。毎週、会いに行く』なんて言う人だよ? 変に付きまとわれたり逆恨みされたら怖いじゃない」 【じゃあ、やっぱり偽物を仕立てて諦めさせるしかないな】 「そうだね。柴くんに頼んでみよう」 【柴くんって誰だよ? 浮気するなよな】 「浮気じゃないよ。ただの大学時代の友だち。私が愛してるのはモモだけだよ」 フフッと笑ったところで、ポンと後ろから肩を叩かれた。 ビックリして振り向くと、ニヤけた顔の景山(かげやま)くんが立っていた。 「ごめん、切るね」 一言そう言って携帯をしまった。私だって学習能力がある。独り言は怪しい人だけど、電話片手の独り言は怪しくない。 「彼氏と話してたところ悪いんだけど、日向が足切っちゃって。診てやってください」 景山くんの言葉に心臓が凍りついた。 「え⁉ 日向くんが? 足切ったってどれぐらい? 何やったの?」 質問を浴びせながら、保健室へと走り出した。 校庭の桜が咲いたと聞いて写真を撮りに来たのが間違いだった。保健室が遠い。 ガラスに足を突っ込んだとか? ああ、どうしよう。手遅れになったら!
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