小休止のアイリッシュ・コーヒー

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それからあっという間に1ヵ月が経ち、来年度は先輩は隣の町の図書館に異動することが決まった。今日は、先輩がこの図書館で働く最後の日だ。 後任の職員に業務の引き継ぎを終えた先輩と駅で待ち合わせ、歓送迎会シーズンでにぎわう繁華街を電車で通り越し、夜の街へ繰り出す。 駅から歩いて5分、閑静な住宅街の奥の一角に目当ての場所はあった。 「素敵なお店知ってるのねえ。バーには行ったことあるけど、夜カフェは初めて」 「実は、私も友達から教えてもらったんです」 少し大きなビルの1階、モノトーンで統一された瀟洒な店内は広く、カフェというより小さなレストランのように見える。 深夜2時まで開店しているというこのイタリアンカフェは、食事やスイーツのフードメニューはもちろん、ビールやワイン、各種カクテル等のアルコールメニューも豊富に取り揃えられている。普通の食事にも、ゆっくりお酒を飲む時にも幅広く使えるお店だ。 予約しておいたおかげで、奥の個室に通してもらえた。 先輩はペスカトーレと生ハムのサラダを、私はオムライスを注文する。お手軽な値段の割に料理は本格的で、予想以上に美味しかった。 「そういえば、最近家でお酒は飲む?」 「おかげさまで、お酒の代わりにコーヒーを飲むようになりました」 良かった、と目尻を下げて小さく微笑む。 先輩の笑顔が好きだった。穏やかで優しくて、でもどこか少し寂しそうで――――これからは、なかなか見られなくなる。 パスタが食べ終わるタイミングを見計らい、近くを通りかかった店員を捕まえた。 「すみません、そろそろ食後の飲み物をお願いします」 空になったお皿が下げられると、少し間をおいてグラスが2つ運ばれてくる。 「お待たせいたしました。アイリッシュ・コーヒーです」
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