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「お待たせいたしました。こちらでよろしいですか?」
差し出した雑誌をひったくるように受け取ると“お客様”は表紙をじっと眺め、貸出カードと一緒に突き返した。
「じゃあ貸し出しで」
「かしこまりました。23日までにご返却お願いします」
裏表紙に貼られたバーコードをなぞる。貸出の処理をさっと済ませ、雑誌にカードを添えて返す。
それらを鞄にしまったと思ったら、彼女は「そういえば」と再びカードを取り出した。
「予約してる本、まだ来ないの? もう1ヵ月以上待ってるんだけど」
カードを受け取り、予約の状況を確認する。
彼女が予約している本は、少し前にこの国で最も有名な某文学賞を受賞した話題作だ。市内の図書館で総計13冊という蔵書数に対して、既に400件近くの予約が入っている。彼女の順場は289番目。
「申し訳ありません。まだお客様の前に280名以上の方にお待ちいただいている状態なので、まだ当分お時間が……」
「はあ!? そんなに待ったなきゃいけないの? もっと増やすとかしないわけ」
素っ頓狂に裏返る金切り声が、カウンターや書架にこだまする。
言われなくとも、既に10冊近く追加購入することが決まっていた。しかしこの手の本はブームの渦中こそ話題が人を呼び、爆発的に予約や貸し出しは増えるものの、一過性の熱が下がれば貸し出しは激減する。
そうして過剰に増えた蔵書(※図書館の本)はどうなるか。
ご自由にお持ち帰りくださいと年に2回行われるリサイクルイベントに出され、そこでも残ったら廃棄処分だ。
「一応、今月中に10冊追加で購入することになっておりますので」
追加購入をしなくても、この小説は既にこの図書館に2冊あった。
図書館は書店ではない。利用者のニーズに答えることも大切だが、限られた予算で話題の作品ばかり重点的に購入していては、蔵書の幅は狭くなってしまう。
追加購入の予算で、もっと別の資料が買えるのではないか――――そんなことに憤りを覚え、憂い、上司に提言していた2年前の自分が懐かしい。
館内で携帯電話を使われても、破損した本や雑誌を平然と返されても。騒ぐ子どもを注意されて逆ギレする親にも、親に放置されて絵本コーナーで大泣きする乳幼児にも、公務員というだけで税金泥棒と呼ばれることにも、今はもう何とも思わなくなりつつある。
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