この素晴らしいネットの世界に愛を込めて

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 満員の通勤電車に乗り込む、いつもと変わらない日常。  いろんな人々がひしめく、珍獣動物園という名のこの乗り物は、あたしを会社という理不尽な場所へと運ぶパイプラインにすぎない。  あたしは、垢でべっとりと汚された手すりにつかまり、この地獄から解放されるのを、ひたすら待っている。  だが、解放されても地獄だというのは変わらない。空間と呼ぶには乏しい狭い中で、珍獣たちは、忙しげにケータイを開き、無表情にキーを打ち込んでいる。  友人へのメールだろうか。それとも、コミュニティサイトへの現実逃避──。どちらにせよ、この現実という名の生き地獄よりマシなのは確か。  あたしも便乗して、昨日書いたブログのチェックをしようと、壁を背にしてケータイを開く。何件かのコメントが寄せられているのを見て、少しほくそ笑む。  このネットという馴れ合いの世界は、あたしを心地良い異空間へと連れて行ってくれる最適な場所。あたしのつたない、メールの延長のような文章を読んで、一喜一憂してくれる人がここには存在する。  不思議なものだ。この狭い、人がひしめき合ってる電車の中、人々はそれぞれにケータイを開き、自分の世界へ逃避している。いくつもの世界が、ケータイを開くだけで繋がるのだから、ネットというのは実に素晴らしい。  馴れ合い?  烏合の衆?  そんなことどうでもいいじゃない。この生き地獄に比べたら、ここはまるでパラダイス。
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