妻の辻褄

5/27
166人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
なぜ、あの女と結婚したんだろう… 結婚願望なんて 無かった俺が… あの女は… 取引先の社長秘書だった 取引先の社長は気難しい男で あの時の商談は難航していた 来客用のソファーに座らされ 眉間に皺を寄せ 首を縦に振らない社長との 居心地の悪い時間 出されたお茶に 手を付ける事も出来ず 目の前に座る社長の一挙手一投足を 固唾をのみ待っていた 社長しかいない俺の視界に スッと差し出された カップ&ソーサー コトリ と置かれたそれには 香りの良い珈琲が淹れられていた 「きくの君。」 社長の声に 慌てて視線をカップから社長へと戻すと 社長は目尻を下げ 見たこともない穏やかな顔をし 「ありがとう。頂くよ」 きくの…という女性は ニコリと笑い 「熱いうちにどうぞ」 俺に笑いかけた 社長の手前 カップに手を伸ばし 一口啜れると 「…うまい。」 予想外に美味かった 彼女は、バリスタなのか?    俺の言葉に気を良くしたのか 「彼女は、殊の外、珈琲を淹れるのが上手でね…」 そう零しながら 瞼を閉じ 珈琲の香りを楽しんでいる風だった それから商談の流れが変わり なんとか、合意に持ち込めた
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!