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なぜ、あの女と結婚したんだろう…
結婚願望なんて
無かった俺が…
あの女は…
取引先の社長秘書だった
取引先の社長は気難しい男で
あの時の商談は難航していた
来客用のソファーに座らされ
眉間に皺を寄せ
首を縦に振らない社長との
居心地の悪い時間
出されたお茶に
手を付ける事も出来ず
目の前に座る社長の一挙手一投足を
固唾をのみ待っていた
社長しかいない俺の視界に
スッと差し出された
カップ&ソーサー
コトリ
と置かれたそれには
香りの良い珈琲が淹れられていた
「きくの君。」
社長の声に
慌てて視線をカップから社長へと戻すと
社長は目尻を下げ
見たこともない穏やかな顔をし
「ありがとう。頂くよ」
きくの…という女性は
ニコリと笑い
「熱いうちにどうぞ」
俺に笑いかけた
社長の手前
カップに手を伸ばし
一口啜れると
「…うまい。」
予想外に美味かった
彼女は、バリスタなのか?
俺の言葉に気を良くしたのか
「彼女は、殊の外、珈琲を淹れるのが上手でね…」
そう零しながら
瞼を閉じ
珈琲の香りを楽しんでいる風だった
それから商談の流れが変わり
なんとか、合意に持ち込めた
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