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僕は思わず息を飲んだ。今、僕の目の前には、卑猥な物がぶら下がっている。ウエスタンスタイルだけに、「いい拳銃をお持ちですね」と気の利いたことを言うべきなのだろうが、そんな悠長なことを考える余裕など、もちろんない。
「どうした新人。にぎれないのか?」
「に、にぎれって……何を」
「この寿司ネタをだ」
と指差した先には、とても寿司ネタとは思えない。いや、思いたくない卑猥な拳銃が、ぶら下がってるだけだった。
こんな奴、客じゃない。とっととつまみ出して、塩でも撒いてやろうと思った、その時──、僕は、店内の異様な光景に気が付いた。
ごった返していた客達は、動きを止め、一斉に静まり返り、この非常識な男ではなく、僕を見ていた。しかも、何か期待をしているような眼差しで。
それは、ホールにいた配膳の女の子達も同様で、女将さんにいたっては「頑張るのよ!」と、手に汗を握る始末。
親方に助けを求めようと振り向くと、親方は厳しい目で僕を睨み、黙って頷くだけだった。
やる……しか……ないのか。
僕の脳裏に「試練」という二文字が浮かんだ。
僕はその、寿司ネタとやらをにぎろうと、恐る恐ると手をのばした。いや、これは寿司ネタなんかじゃない。チンコだ。チンコそのものだ。なんで僕が、こんな中年のチンコを、にぎらなきゃならないんだ。
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