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そう思っていると、男は僕を怒鳴り付けた。
「シャリはどうした!」
シャリとは寿司ネタを乗せる、酢飯のことだ。まさか、このネタをシャリに乗せろと言うのか。
うちの米は、よりすぐりの新潟県産コシヒカリ。それを、あの卑猥な物にドッキングさせるなど、あってはならないこと。しかし、それを拒否することは、できない空気でもあった。
僕は、ここでふと、田舎の母を思い出す。立派な寿司職人になれと、送り出してくれた母。女手ひとつで僕を育ててくれた母。その母に、まだ僕は何ひとつ恩返しをしていない。一人前になった僕の、にぎった寿司を母に食べてもらうまで、こんなところでくじけるわけにはいかないんだ。
僕は一口大のシャリを持ち、意を決して、そのネタへと再び手をのばした。すると、僕の手が来るのを待っていたかの如く、ネタは平行になった。真っ直ぐと、百八十度にである。そして、僕の左手はネタを掴み、右手のシャリをドッキングさせた。
「さあ! お前のにぎりっぷりを、見せてみろ!」
男のその言葉に合わせ、僕は寿司をにぎるかのように、チンコをにぎった。これも修業のうちだと思い、歯を食いしばり我慢した。
「できました!」
特注のにぎり寿司が完成した。しっかりとネタがくっついたコシヒカリ。まるで、寿司が宙に浮いてるかのようで、見ていて不思議な気分になった。
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