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「ではまず、お客様の好きなタイプからお伺いしてもよろしいですか」
「俺が好きなタイプは、とにかく美人でスタイルが抜群な奴だ。そうだな……グラビアアイドルみたいな巨乳がいいな」
「かしこまりました」
「あと、俺に尽くしてくれないと駄目だ。何の文句も言わず男を立て、料理も上手で、綺麗好きな女じゃないと嫌だ」
「かしこまりました」
「あとは、俺が浮気をしても怒らない女で、ちゃんと仕事もしてて、稼いでるほうがいいな」
「かしこまりました」
その後も、客の男は、ここぞとばかりに自分の好みを言い続け、職員の男は、ずっと笑顔のまま、客の言ったことをパソコンに打ち込んでいた。
「本当に、俺の好みの女と結婚できるんだろうな」
「もちろんでございます」
職員の男が、あまりにも簡単に返事をするので、客の男は、少し疑いの念を抱きはじめた。
「まさか、俺の結婚相手は在日外国人で、日本に留まるための偽装結婚をさせるわけじゃあるまいな」
「とんでもございません」
「さては、俺の好みのアンドロイドを作り上げ、それを高値で売り付けるつもりだな」
「とんでもございません」
「じゃあきっと、結婚相手とグルになって、俺に高額な生命保険を掛け、俺を殺して保険金をせしめるつもりだろ」
「とんでもございません」
「では、なぜだ。俺は今まで、そんな女に会ったこともないし、会ったとしても、俺みたいな甲斐性無しなんか、相手にしてくれるわけがない。それをお前は、いとも簡単に結婚できると言う。何か裏があるに決まってる」
客の男は立ち上がって怒鳴りちらした。だが、職員の男は相変わらず笑顔のまま。
「お客様、当店は、絶対に結婚できる結婚相談所ですよ。すべてお任せください」
「そうか、じゃあ頼む」
客の男は、職員の男にたしなめられ、椅子に腰掛けた。
「ではお客様、結婚相手をご紹介させていただく前に、こちらを受講してください」
そう言って、客の男に手渡されたのは、自己啓発セミナーのパンフレットだった。そして、職員の男は、さらにこう付け加えた。
「実は私も、これを受講して結婚することができたんです」
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