43人が本棚に入れています
本棚に追加
「君は政治をまるで理解していない。こんな既成事実など、いくらでも変えられるのだよ。
君は暗殺犯として銃殺される。それが後世に伝えられる、この暗殺未遂事件の顛末だ。
そうして歴史は作られてきたのだ。所詮は無力な個人が対局に介入する余地などないのだよ」
「……く……そ……」
「しかし惜しいぞ。君ほどのハッカーなら、私のような存在に到達できたのにな」
安芸総理がうすく笑った。
「……身の……丈……」
もう声がでない。胸に空いた穴から空気ばかりか、すべてが漏れていくようだ。
記憶がガラガラと崩れる音がする。その欠片のなかにアオネ先輩のまぶしい顔があった。
まだだ。まだ尽きてはいけない。
「なんだね? 辞世の句なら聞くのも吝かではない」
顔を近づけた安芸総理に、僕は最後の力を振り絞って顔を近づけた。
「……ウサギの……アクビ……」
魂身の一言なのに、口をついて出たのはあの人の言葉だった。
そして、暗い闇に落ちた。
────────
──────
────
「馬鹿野郎ぉ! 死ぬなんて予定外じゃないかッ!!」
アオネが涙を流しながら、冷たくなった小平の傍らで絶叫した。
そのアオネの肩に安芸総理が手をかけようとすると、
「この記憶クラッカーが! 小平を返せッ!!」
それを振り払って詰め寄るように睨んだ。
安芸総理が肩をすくめる。
「小平、君は犬死にだよ」
アオネがガクリと力なく頭を垂れた。
その頭に掌を乗せ膝をついて、ゆっくりと安芸総理が告げる。
「大丈夫ですよ。結果オーライ、なんとかなりますって」
そうつぶやきながら、頭を掻いてウインクした。
──かくて記憶ハッカーは戦いて 終。
最初のコメントを投稿しよう!