かくて記憶ハッカーは戦えり

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「君は政治をまるで理解していない。こんな既成事実など、いくらでも変えられるのだよ。 君は暗殺犯として銃殺される。それが後世に伝えられる、この暗殺未遂事件の顛末だ。 そうして歴史は作られてきたのだ。所詮は無力な個人が対局に介入する余地などないのだよ」 「……く……そ……」 「しかし惜しいぞ。君ほどのハッカーなら、私のような存在に到達できたのにな」  安芸総理がうすく笑った。 「……身の……丈……」  もう声がでない。胸に空いた穴から空気ばかりか、すべてが漏れていくようだ。  記憶がガラガラと崩れる音がする。その欠片のなかにアオネ先輩のまぶしい顔があった。  まだだ。まだ尽きてはいけない。 「なんだね? 辞世の句なら聞くのも吝かではない」  顔を近づけた安芸総理に、僕は最後の力を振り絞って顔を近づけた。 「……ウサギの……アクビ……」  魂身の一言なのに、口をついて出たのはあの人の言葉だった。  そして、暗い闇に落ちた。  ────────  ──────  ──── 「馬鹿野郎ぉ! 死ぬなんて予定外じゃないかッ!!」  アオネが涙を流しながら、冷たくなった小平の傍らで絶叫した。  そのアオネの肩に安芸総理が手をかけようとすると、 「この記憶クラッカーが! 小平を返せッ!!」  それを振り払って詰め寄るように睨んだ。  安芸総理が肩をすくめる。 「小平、君は犬死にだよ」  アオネがガクリと力なく頭を垂れた。  その頭に掌を乗せ膝をついて、ゆっくりと安芸総理が告げる。 「大丈夫ですよ。結果オーライ、なんとかなりますって」  そうつぶやきながら、頭を掻いてウインクした。 ──かくて記憶ハッカーは戦いて 終。
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