43人が本棚に入れています
本棚に追加
「どう違うのだ?」
「他人の記憶を不正な手段で操作したり、無許可で情報を入手することをハッカーと呼びます。
そしてクラッカーとは、犯罪行為が目的で他人の記憶を操作して、破壊活動や殺人行為をする者です。その記憶クラッカーの犯罪計画を知ってしまったんですよ」
「どうにも穏やかではないな」
「僕はチンケな趣味で、ちょっとだけ記憶を弄くるアノニマス(名前のない)な存在で良いんです……
身の丈相応の生き方で良いんです。それでも、記憶クラッカーの悪巧みを止めたいんです!」
“君が偉大な才能を持っているならば、勤勉がそれにみがきをかけるだろう。 君が普通の能力しか持っていないなら、勤勉がその不足を補うだろう”
先の画家が残した言葉である。
たとえ偉大な能力を持っていても、普通の者は頑張るしかないのだ。
「いかにも君らしいポリシーだな。それでなぜ、その記憶クラッカーに歯向かうのだ?」
「僕の生き方はゆっくりと歩くだけで、決して走ろうとはしませんでした。
でも、今がその全力疾走で駆けるときかな、とガラにもないことを思って……」
「おびえたウサギに見えるけれど、やはり君は男なのだな」
感慨深げにつぶやくと、ふっとその大きな眼を細めて物憂げな表情をした。
そんな顔をするなんて反則だ。まぶしくて直視できないじゃないか。
そんな大人びた表情は初めて見た。告白してみるもんだな。ちょっとだけ嬉しくなった。
この記憶は殿堂入りで、心の戸棚に飾るとしようか。
「どうしたのだ? まるでウサギの鼻が濡れたような顔をしているぞ」
「なんでもありません。ちょっと心拍数がフルマラソンしただけです」
不覚だ。どうやら赤面していたようである。
「それで、その記憶クラッカーの狙いはなんなのだ?」
固唾を呑んで訊ねるアオネ先輩に、僕は重く震える声で告げた。
「明日、安芸総理が出席する式典での暗殺計画です」
──当日、式典の会場。
会場には大勢の観衆が集まり、この平凡な街の全人口以上の人間が押し寄せたかのようである。
僕とアオネ先輩は、その大勢の観衆に紛れて会場に入った。
「このなかに暗殺者がいるのだな」
「ええ……例のモノはどうでしたか?」
最初のコメントを投稿しよう!