かくて記憶ハッカーは戦えり

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「準備は万端、あとは仕上げを刮目して待て」 「やはりアオネ先輩に頼んで良かったです」 「それよりも、記憶クラッカーの全ての記憶を乗っ取るか、書き換えれば済む話ではないか?」  そう言われるのも無理はない。  記憶をハッキングできると、人を意のままに操れる無敵者のように考えられる。  でも現実はそんなに甘くない。 「それは負担がハンパないんです。バッファオーバーフロー、つまり僕の領域をはるかに超えた情報を入力すると、相手の記憶領域が暴走してしまうんですよ」  申し訳なさそうに答えると、アオネ先輩が残念そうに肩を落とした。 「そうか……やはり記憶を操作するのは大変なんだな」 「アオネ先輩を言い負かすよりは容易いかと」 「ちょっと同情するとすぐこれだ。まったく君は」  アオネ先輩が苦笑した。うん、良い笑顔だ。 「それよりも、こんな無茶な計画で本当に暗殺を阻止できるのか?」 「大丈夫ですよ。結果オーライ、なんとかなりますって」  僕は頭を掻きながら、精一杯の笑顔でウインクした。  午後2時を決行時間にして、アオネ先輩が予定の配置につく。  僕はボンヤリと式典会場を眺めていた。 (昨日まではこんな大仰なこと、まったく想像もしていなかったな)  趣味を悪いことに使った罰なのかと、そんな考えがしきりに頭を巡っている。 (アオネ先輩に“尊敬しています”と記憶を植えつけておくんだったな。さぞかし面白かっただろう)  その記憶を開けたときの顔を見たかったな。僕は想像してニヤケ笑いを浮かべていた。  ──そろそろ2時だ。  会場にどっと歓声が沸いた。安芸総理とT大統領が入場したからである。  会場中の視線が壇上に集まるなか、僕だけは違う方向を向いていた。  会場の背後にあるビルの壁面だ。  僕は用意していたスマホのレンズを、自分の方に向けて待機した。
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