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かくて記憶ハッカーは戦えり
“人間のまことの性格は趣味によって知られる”
どこかの国の画家が残した言葉だ。
その言でいくと、僕の趣味は性格同様に平々凡々であろう。
いや、性格ばかりでなく、僕の容姿もおよそ凡庸で目立たない。
クラスに必ず1人はいる、存在感のない人目を引かないヤツ──それが僕だ。
それは動物でいえば保護色であり、敵から身を護る擬態である。
弱い動物が身につけた能力、いわば適応進化である。
だけど僕の場合、身につけた武器はそれだけじゃない──。
「おいそこの冴えない平凡君、てめぇ因縁つける気かよ」
長髪を金色に染めたチャラい男が、恫喝するように凄んだ。
僕とは正反対のベクトルに生きる者だ。
獲物をかぎつけたハイエナのように、隅に目立たぬように立つ僕の方に近づいてくる。
いかにも禽獣の習いで、弱い草食動物の周りを廻り威嚇した。
昼間の電車のなかである。乗客はまばらだが、それでも皆の視線が僕に集まる。
どうやらチャラ男は、僕の顔が気に入らないようだ。
目立たぬように細心の注意を払っていてもコレだ。やれやれである。
「な、なんですか……!?」
おびえたウサギのように身を震わせる。まだ眼は伏せたままだ。
「コラッ、こっち向けっつゥの!」
チャラ男が顔を斜め45度にして、ひときわ大きな怒声を放った。
「なに、どーしたのマー君?」
チャラ男の仲間が3人、おもむろに振り向いた。
この時点で、電車内に不穏な空気が漂う。
車内の乗客が眼を泳がせて、ことの成り行きを見守っている。
どうやら、誰も助けてくれないようだ。かくも世間とは冷たいものである。
その空気を察知して増長したチャラ男が、
「こっち向けッ!!」
哀れな獲物を追い詰めるように壁ドンして顔を近づけた。
眼前に肉食獣の下卑た笑みがあった。不快だな。
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