時計 TYPE A

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時計 TYPE A

 朝の身支度をしている時、腕時計が止まっていることに気がついた。  龍頭を回してみるが反応がない。  就職祝いにもらった品で、そこそこ長く使っているから、そろそろ故障してしまった可能性もある。  どちらにしろ、仕事帰りに時計屋に行って様子を見てもらうのがいいだろう。  動いてはいないが、癖で、はめるだけはめて家を出る。  会社に行き、いつも通りに仕事をこなし、幸いにも残業がなかったのでその足で時計屋に向かった。  その道すがら。 「あれ、お前、もしかして…」  ふいに声をかけられ、振り向くと、そこに懐かしい顔があった。  大学の同期で、在学中は毎日のように顔を合わせていたが、就職してからはほぼ会うことのなくなっていた友人だ。  聞けば、卒業後、別の土地で就職したのだが、今年から転勤で地元に戻って来たという。  懐かしさがどんどん込み上げ、立ち話も何だから、近くの居酒屋に出も入ろうということになった。  その時に、時計のことを思い出した。  多分、飲んだ後だと店は閉まっているだろう。それに俺もまともに会話ができるかどうか判らない。  店はすぐそこだし、ちょっと修理の依頼をするだけ。時間はさほどかからない。  でも、今かなり盛り上がっているから、友人を待たせるのも気が引ける。  少し考えた後、俺は友人と連れ立って居酒屋に向かった。  大事な時計ではあるが、最近じゃ、スマホをいじっていることが多いから、時間もその流れで確認することがほとんどだ。  とりあえず時計は明日でいい。今は少しでも長く、再会した友人との時間を楽しもう。
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