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二軒、三軒とはしごして、友人と別れたのはすっかり深夜になってからだった。
ふらつく足で家へと向かう。
明日も仕事というのに、いくらなんでも飲み過ぎた。朝、きちんと起きられるだろうか。
そういえば今何時だ?
反射で腕時計に目を向ける。だが手首に時計が見当たらない。…そういえば修理に出したんだった。
すっかり癖になっているなと苦笑しながらポケットのスマホに手を伸ばす。その瞬間、左の手首に激痛が走り、俺は手にしたスマホを落とした。
慌てて拾おうとするが、酔いのせいで手足がもつれ、俺はつんのめって道端に膝をついた。
その瞬間。
背後を、かなりのスピードで車が駆け抜けて行った。
こんな夜中に危ない運転しやがって。そう思った直後に、自分の立ち位置に青ざめる。
スマホを拾おうとして、俺はいつの間にか道の端っこに寄っていた。そうでなければもっと道の真ん中にいた筈だ。
もしその状態であんな速度の車にはねられていたら…。
一気に酔いが醒めていく。そんな精神状態の中、なんとなく見たスマホの時刻表示は…午前一時。
その数字に見覚えがあった。
今朝止まっていることに気づき、さっき修理に出した時計。あれが示していたのは『一時』だった…。
咄嗟に、いつも時計を嵌めている左手首を握る。何もないそこから秒針が時を刻む音が聞こえた気がした。
…あれから一週間。
俺の左手首には、さっき受け取ったばかりの時計が嵌められている。
そこまで高価な品じゃないけれど、心のこもった贈り物。多分、俺の命を救ってくれただろうこの時計を、もうどうしても無理だという状態になるまで、末永く身につけ続けようと思った。
時計 TYPE B…完
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