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「ごめんなさい。って、先生か」
顔を上げると、須藤先生が呆れた顔をしている。
「……先生かって、お前な。廊下は走るな」
「ごめんなさーい」
あれから先生とは、教師と生徒だけの関係だ。
こうして普通に話せているのが、自分でも不思議なぐらいだけれど。
「まあ、元気なことは良いことだけど怪我するぞ?」
「気をつけます」
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
「はい。先生さよなら」
「さよなら」
こうやって、あと何回挨拶を交わすことができるのだろう。
先生のいない学校。
先生と会えない日常。
寂しくないと言ったら嘘になるけれど、目の前の人をその人として愛せない虚しさを、愛してもらえない切なさを私は知っているから、これで良かったと心から思っている。
__変わっていく環境。
__変わっていく想い。
少し切ないけれど、それが生きていくということだ。
「お。水野」
先生がすれ違い様に呼んだ名前に、飛び跳ねる鼓動を無視できずに振り返ると後ろにはジミノがいた。
「水野も気をつけて帰れよ」
「はい」
そっとこちらを見るジミノから、思わず視線を反らす。
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