どうやったら弁明してもらえる?
僕はベッドに埋めていた顔を上げ、勉強机に目をやる。ノートや参考書が散らばっているその上に、一橋さんの日記がちょこんと置いてある。
あれを上手く使って交渉できないだろうか?
たとえば『日記は読んでない。だから何が書いてあったか僕は知らない』と言ってみてはどうか。……ダメだ。日記を開いて中を読んでいた現場をガッツリ見られてるし、まず信じてもらえないだろう。ちらっと見ただけ……と言っても一緒か。じゃあ、『僕の苦手科目は国語で感じどころか平仮名、カタカナも読めまセーンHAHAHA!』……無理がありすぎる。そんな嘘を信じるものか。もういっそのこと『中は全部読ませてもらった。君の弱みをばらされたくなかったら僕の言う通りにしろ』と脅迫して……ってそんなことをする僕って下衆の極みィィ!!
「実! バタバタうるさい! 静かにしなさい!」
「はっ! はいごめんなさい!」
突然部屋に入ってきた母さんが怒鳴り込んできた。僕が即座に謝ると、母さんはそれ以上何も言わず、部屋から出ていった。
ビックリした。でも、おかげで脳内パニックが沈静化した。
そして、
「そういえば……」
僕はあの日のことを思い出す。
あの日。一橋さんが教室に来る直前まで、僕は彼女の日記を読んでいた。それは紛れもない事実である。
ちらっと見ただけ。最初の一文を読んだだけ。そんなつまらない言い訳をせずに、どれくらい読んでいたかと聞かれればたぶん、そう……
"30分近く読んでいた気がする"。
面白かったから。ただそれだけの理由で、だけどそれが故に30分も、何ページも何ページもめくって、日記にかじりついていた。
そこに彼女の秘密が書いてあったわけではなかった。特別恥ずかしいエピソードも、友達との他愛ない会話も書いてなかったけど、僕は夢中になっていて、"何故か懐かしい気持ちで"読書していた。
「………、」
喉の奥に刺さった魚の小骨みたいに、あの時感じた懐かしさが引っかかる。
もう一度読めば何かわかるかも知れない。僕は一橋さんのプライバシーよりも自分の小さなエゴを優先し。
彼女の日記に手を伸ばす。
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