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とここで、あたしはふと思う。なぜこんな季節にカエルがいるのだろうか。もしかして、冬眠するのを忘れたのか。だとしたら馬鹿なカエルだ。
あたしはその場にしゃがみ込み、カエルをじっと見つめた。このカエルの生涯は、哀れにもここで終わってしまったが、はたしてこいつは幸せだったのか。
家族はいたのか。子供はいたのか。もしそうでなかったら寂しい人生だ。そう思いながら、あたしはペラペラなカエルに手を合わせた。
理由は、ただ、何となく。
べつに成仏して欲しいからではない。だってカエルだもの。
とそこへ、一台のダンプカーが、ものすごい勢いで目の前を横切り、あたしはその冷たい風に追いやられ、尻餅をついた。
そのまま曇天の空を仰ぐと、今までこびりついていたカエルが、ひらひらと宙を舞っているのが見えた。
まるで、残り一枚になった葉が、木から巣立っていくように。
でも、あたしは風流だなんて思わない。だってカエルだもの。
あたしは起き上がり、尻をポンポンと叩いた。カエルはそのまま風にあおられ、どこかへ飛んで行ってしまったようだ。
また、アスファルトの道路を見る。今までカエルがいた場所が、くっきりと円くなっていた。
まるで、日食で見られるダイヤモンドリングのように。
でも、あたしは綺麗だなんて思わない。だってカエルだもの。
そして、あたしはまた、歌いながら足を踏み出した。
「カエルの歌が聞こえてくるよ」
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