そのまんまやんけ

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 名もなき野良犬、私はその犬にタンポンと名付けた。理由は、広辞苑を開き、最初に目に留まった文字だったからだ。  タンポンは雑種の中型犬、好物はパンの耳だった。私は近所のパン屋さんから三十円のパンの耳を買ってきては、タンポンに食べさせた。  満足に「お手」すら出来ないバカ犬だったが、パンの耳をむさぼる姿は、とても愛らしかった。  そんなある日、私がいつものようにパンの耳を買い込み、タンポンの様子を伺に行くと、タンポンに食べ物を与えている青年と出くわした。  その青年の手には、空き缶が握られ、タンポンはその空き缶から出されたと思われる物を一心不乱に食べていた。 「ペディグリーチャム・MIXER」  空き缶にはそう書かれていた。そして、その青年はタンポンのことをこう呼んだ。 「ノリスケ」と。  タンポンは、私が今までに聞いたことのない声で吠えた。  素直に、元気よく。  私は慌ててパンの耳を隠し、その場から走り去った。  タンポンのバカ!  バカバカバカ!  ペディグリーチャムなんかに釣られて、自分の名前を売るなんて。しかも、よりによってノリスケって何? センス悪っ!  私はその日の晩に、引っ越す決意を固めた。そして、今この部屋で新しい生活をスタートさせたばかりだ。  ここはペット禁止だが、幸いなことに、一階に住む管理人さん一家が犬を飼っている。  私は名前を付けてやろうと、再び広辞苑を手に目を閉じ、勢いよく開いて、最初に目に留まった文字を見た。 いぬ【犬】イヌ科の哺乳類
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