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「ちょっときておくれ」
母さんがケータイ片手に困った顔をして僕を呼ぶ。
僕の母さんは六十代。でも最近、ケータイにはまっている。なので、わからなくなるとすぐに僕を呼ぶのだ。
母さんにケータイを持たした理由は、いつでも連絡を取れるようにしたいのと、痴呆予防のための指先の運動になればと思ったからだ。
慣れない精密機械に、最初はわけがわからないようだったが、慣れてくるとネットショッピングをしたり気になるレストランのホームページを見たりと、老後を自分なりに楽しんでいるようで、僕も息子として満足だ。
思えば、母さんは苦労をしてきた人だ。早くに父さんに先立たれ、僕のことを考えてか再婚もせず、女手ひとつで僕を育ててくれた。
なので、僕は母さんには頭があがらないのだ。
うちにはパソコンが一台あるが、使うのは僕がほとんど。でも、僕がパソコンをいじっていると、母さんが横から、
「画面おっきいねえ」
なんて、自分のケータイの画面と見比べて羨ましそうな顔をする。なので僕は、母さんにパソコンの使い方を教えた。
たどたどしく、人差し指だけでパソコンのキーを打つ母さん。でも、なんだか嬉しそう。
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