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時刻は午前零時──。
久しぶりに、マンションの部屋に帰った。ドアの郵便受けには、何日分かの新聞が無造作に突っ込まれ、孤独死を疑われても仕方がない状況を物語っていた。
疲れた体を引きずりながらドアを開ける。その勢いで新聞が何部か落ちたようだが、気にはならなかった。
部屋に入ると、電気も点けずに真っ先に冷蔵庫の扉を開けた。そして、ハバネロのオイル漬けを舐め、冷えたウォッカを瓶の口からそのまま飲んだ。辛くて青臭い口の中の業火をウォッカが瞬く間に鎮火してくれる。それがまた心地いい。
私は、真っ暗な部屋で冷蔵庫のライトを浴びながら、ふと別れた彼のことを思い出していた。
優しかった彼。笑顔がとても癒され、砂漠のような私の心のいこいのオアシス。
でも、そんな彼から突き付けられたのは意外な言葉だった。
「実は俺、人間じゃないんだよ」
そうとだけ告げ、彼は私の前から姿を消した。私のことが嫌いになったなら、そう言えばいい。どうせ嘘をつくなら、もっとマシな嘘にして欲しかった。
そう思ったが、私は彼の言葉を素直に受け入れてしまった。我ながら情けないと思う。
それからというもの、私は仕事に打ち込んだ。部屋に帰らないのは当たり前。というか、帰って孤独を感じるのが恐かっただけ。仕事を口実に会社に泊まれば、誰かが起こしてくれる。
仕事が休みの日は、ボランティア活動に明け暮れ、とにかく何かをしてなければ、死んでしまうのではないかという錯覚にさえ陥った。
そして、たまにこうやって一人になると、思い出すのは彼の笑顔だけ。
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