0人が本棚に入れています
本棚に追加
あたしは、毎日のようにそこへ通った。煙草も覚え、マリファナも吸った。頭がクラクラして無気力になり、人生なんてどうでもいいように思えてくる。
高校を早退するのなんて当たり前。親が何を言っても無視するようになり、墜落するヘリのように、ふらふらと堕ちて行ってるのを実感した。きっと、行く先にあるのは地獄なのだろう。
そのマンションからの帰り道、あたしはよく地面を思い切り蹴り、何度もジャンプした。
滞空時間はたった0.5秒。その時間だけは背中に羽根が生え、自由になれたような気がして気分が良かった。でも、着地した時に現実に引き戻される。その繰り返し。それがあたしの自制心を保っていたのかもしれない。
ある日、その話を沙織にしてみると、
「ふーん」
と、鼻で笑いながら、
「あたしもやってみようかな」
と言った。
そして翌日、そのマンションの屋上から、沙織は着地することのないジャンプをした。
そう、決して現実には戻れないジャンプを──。
悲しかったが不思議と泣けはしなかった。あたしは涙すら枯れ果ててしまったのだろうか。
それ以来、あたしはそのマンションへは行ってない。煙草はたまに吸う。
そしてあたしは、今日も天を仰いで思い切りジャンプする。しっかりと地面に足を踏み締めて。
「いつか本当に羽根が生えるかもしれない」
なんて、馬鹿なことを考えながら。
最初のコメントを投稿しよう!