0.5秒

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 あたしは、毎日のようにそこへ通った。煙草も覚え、マリファナも吸った。頭がクラクラして無気力になり、人生なんてどうでもいいように思えてくる。  高校を早退するのなんて当たり前。親が何を言っても無視するようになり、墜落するヘリのように、ふらふらと堕ちて行ってるのを実感した。きっと、行く先にあるのは地獄なのだろう。  そのマンションからの帰り道、あたしはよく地面を思い切り蹴り、何度もジャンプした。  滞空時間はたった0.5秒。その時間だけは背中に羽根が生え、自由になれたような気がして気分が良かった。でも、着地した時に現実に引き戻される。その繰り返し。それがあたしの自制心を保っていたのかもしれない。  ある日、その話を沙織にしてみると、 「ふーん」  と、鼻で笑いながら、 「あたしもやってみようかな」  と言った。  そして翌日、そのマンションの屋上から、沙織は着地することのないジャンプをした。  そう、決して現実には戻れないジャンプを──。  悲しかったが不思議と泣けはしなかった。あたしは涙すら枯れ果ててしまったのだろうか。  それ以来、あたしはそのマンションへは行ってない。煙草はたまに吸う。  そしてあたしは、今日も天を仰いで思い切りジャンプする。しっかりと地面に足を踏み締めて。 「いつか本当に羽根が生えるかもしれない」  なんて、馬鹿なことを考えながら。
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