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一週間目──。まだ卵に変化はない。ただ温っているだけ。ひょっとして、おちょくられてるのではないかと不安になった。
二週間目──。心なしか、卵が少し大きくなったような気がする。
三週間目──。ようやく、保温器が大きい理由がわかった。明らかに卵が大きくなっている。直径にすると三十センチはありそうだ。
しかし、卵自体が成長するとは、いったい何の卵なのだろうか。
そして、とうとう六十日目を迎えた。成長を続けていた卵の大きさは、保温器いっぱいになっていた。縦は一メートル、横幅は五十センチくらい。俺は、不安と期待が入り交じった気持ちで、卵がかえるのを、今か今かと待っていた。
すると、卵の中からドンドンと叩く音が聞こえてきた。さあ、いよいよだ。何が生まれてくるのかは知らないが、六十日間も育ててきた俺は、親のような気持ちで、今まさに生まれようとしている、何かを待ち構えた。
だが、卵にひびが入り、最初に中から出てきた物を見て驚愕した。なぜならば、それは間違いなく、人の手だったからだ。
そして、次々に卵の殻を割って出てきた、奴の姿を見て、俺は目を疑った。
奴とはまさしく、俺だったからだ。身長、髪型、さらには幼い頃の怪我の跡など、どこからどう見ても俺だった。
そして目の前の俺は、俺にこう言った。
「今までお疲れ様。二号」と。
その言葉を聞いて、全てを思い出した。
そうだ、俺も卵から生まれてきたんだと。そして、生まれた時に、
「今までお疲れ様。一号」
と、目の前で驚いていた俺に言ったんだと。
俺の意識は、次第に薄れていった。後は、俺の代わりに三号が電話をすればいい。
俺の処理を依頼する電話を──。
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