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私がふと足を止めたのは、浅木さんが、ハンドメイドコーナーで、ドライフルーツを手にしているのを見かけたからでした。
意外だったんでしょうね、私にとって。
浅木さんらしくないと言えばいいのでしょうか。
「お菓子作れるんですか」
答えが返ってこないのは分かっていながら、私はつい呟いてしまったのです。
私が知っている浅木さんは、スポーツ万能で、明るくて、人気者。
あまり女の子らしくなくて、むしろカッコいいと評判の姿でしたから、ギャップがあったのかもしれません。
浅木さんと水嶋先生の朝の密会を知っている私としては、それを何の目的で、何のために作ろうとしているのかは一目瞭然だったので、なおさら、気にかかったのでしょうね。
でも、浅木さん。
あなたは忘れていますよ。
バレンタインに限って、敵は私だけではないんですよ。
去年のバレンタインのことを忘れたんですか。
そんな助言は、私からする必要はないでしょう。
それに、バレンタインは浅木さんがいない方がきっと楽しめると思いますし。
水嶋先生には、少し酷かもしれませんね。
だけど、普段、私を利用しているのだから、少しくらいあなたたちで遊んでも構わないでしょう?
水嶋先生のために一生懸命お菓子を作ろうとする浅木さんがおかしくて、私はうっすらと笑みをこぼしてしまいます。
バレンタインに気づけばいいんですよ。
その選択が、どれだけ間違えだったかを。
浅木さんを横目で見ながら、私はそう思います。
私を邪険にするなら、私を無視できないようにするまでの話ですから。
ね、浅木さん?
そして、先生?
簡単なハッピーエンドなんて、待っていないんですよ。
私という存在がいる限りは。
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