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あの花は何なのだろう
生ぬるい銃弾が落下してきて、あざやかに花が咲いた。
激しく、俄雨。
見上げれば、太陽はもう見えない。いつの間にか完全に、巨大で、重装備したような鉛色の雲の集団に、広範囲に空は支配されていた。
いっそのこと、爆撃機が飛来して核爆弾でも落としてしまえばいいのに。
一瞬ですべてが吹き飛ぶように。
……暗い。
まだ夕方前だというのに、あたりは薄闇に包囲され、つぎつぎと乾いた頬に、頭上に、何発も何発も大粒の弾丸が降り注いでくる。アスファルトに黒い弾痕が飛び散り、ランダムに染み刻まれてゆく。
場や鼓膜を強く無差別に叩きつける水滴の音と、濃密に周囲を占拠する湿気た匂い。
その瞬間。
両眼を連続して撃ち抜かれ、たまらず、反射的にすぐさま瞼を閉じ、躰をよじらせ、荷物だったカバンを投げ捨てると固い地面へ崩れるように跪いて──そっと。
そっと、眼を開けた。
花が──。
花が咲いていた。
そこに、眼の前に、突然あたり一面に、花が咲いていた。
手をのばしても、届きそうで届かない、いまにもふれられそうでふれられない、そう存在はたしかにするのに実体のない花が。
なぜ?
あの花はなぜ、咲いたのだろう?
あの花はなんて表現すれば、いったいなんて呼べばいいのだろう?
太陽が──。
太陽が輝くような、輝いているような、花が──。
まっすぐ閃光を拡散するように、放射状に花びらをひらいて、いっせいにつらなり、ならんで、太陽のような花が咲いていた。
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