13人が本棚に入れています
本棚に追加
約8分19秒前の太陽
真っ青な空に、ぽっかりと円い穴があいてしまったかのように、強烈に太陽が燃えている。
眩しくて、おもわず片手でその穴をふさいだ。
瞼を閉じても、黒い面に白い円が焼きついて消えない。あまりに長く見つめすぎてしまったのかもしれない、網膜の細胞が一部死滅してしまうほどに。
どうして?
どうして、ここにいるのだろう?
いつもは通り過ぎる駅のプラットフォームに、気づいたらひとりでたたずんでいた。
初めて学校をサボった。
今日の今日まで、学校の授業をサボったことなんてまったくなかったし、サボりたいと思ったことすら一度もなかった。
昨日、べつに何か嫌なことがあったわけじゃない。昨日どころか朝起きたときも、家を出たときも、いつもどおり、いつもと同じ気分だった。ほんとうにほんのついさっきまで、今日は学校へ行くのをやめようなんて考えは1㎜も頭に浮かばなかった。
遊んでいただけの気楽な小学生の頃はもちろん、中学にあがってから本格的な試験や定期的な学校行事なんかがある日でも、ほかのほとんどの同級生たちが愚痴るように、いちいちしんどいとも、めんどくさいとも思ったことなんてない。
そういうふうに、いちいちネガティヴな気分をわざわざ言葉にして吐き捨てるほうが、よっぽどしんどいしめんどくさかった。
ただ──。
ただなんとなく、くだらないと思っただけ。
大阪市へと向かういつもの時間帯、京阪電鉄の、満員の急行電車のなかで立って、吊革につかまり揺られながらスマートフォンをいじっているとき、視線がふいに、いつもの単調に流れる風景から外れた。
人いきれでやや曇った窓ガラスの向こう、排気ガスで充満し光化学スモッグで靄がかった街並みの、その向こう側の離れた上空に。
真っ青な空に、穿つ太陽に。
最初のコメントを投稿しよう!