■1-なんとなく[季節の移ろいとともに]

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『賑やかな奴ら』の中で、判別のつく人物という位置づけだった有家川を、はっきりと意識し始めたのは一年の二学期からだった。 教科書の読み上げなど、授業中ならよくあることだ。 けど、読み上げている最中や終わりに視線を感じ、振り返ると有家川と目が合う事がある。 はじめは気のせいかと思った。 だが、他の奴が読み上げている時に有家川が見ている様子はない。 それどころか、寝ていたふうだったのに俺が読み終わった途端、チラリと視線を寄越すことすらある。 それに、最近、有家川の朗読が変わってきた気がする。 話す声とは少し印象が違う。 聞き取りやすくて心地いい。……一体なぜだろう。 そうやって俺は、だんだんと有家川聖夜を意識するようになっていった。 『賑やかな奴ら』なんて、どうでもいい。 そう思っていたから、ぎゃぁぎゃあ話すのが聞こえてはいても会話の内容は頭に入らなかった。 けれど、有家川を意識し始めると、脳が勝手に内容を認識し、記憶に留めだした。 カズと呼ばれている牟田(むた)は他人をおちょくるようなことを言って笑いを取る事が多い。 それでも面白さがあるので嫌われる事はないようだ。 俺のことも『気取ってる』だとか『出来ますアピール、ウゼェ』だとか好き放題言っている。 有家川はそれに大笑いしながらも、 「ええ?そうか?」 と、安易に悪口に同意はしない。 フー太と呼ばれている沢木(さわき)と有家川は、いつもふざけてじゃれあっている。 このふたりのやり取りは微笑ましい。 沢木は頭はいいが少し天然で、そこまで賢いわけではない有家川が突っ込むので、両ボケになっていても気付かない。 さらにバカな牟田が引っ掻き回す。 他のクラスなのに牟田といつも一緒にいる友地(ともじ)がその場にいれば、こいつが話をまとめることが多いようだ。 あとはまれに、橋野と鴨下というやつらも騒ぎに混じることがある。 勝手に耳に入ってきた情報からすると、有家川はお母さんと二人暮らしの一人っ子。 父親は中学のとき交通事故で他界したようだ。 そして、父親との思い出をとても大切にしている印象を受ける。 父親の影響で小学生の頃からギターを弾いたりしていたらしい。 あのルックスだからバンドなんかに誘われたりするみたいだが、イマイチぴんとこないようだ。 かといって他に取り立てて趣味もなく、暇を持て余して沢木や牟田なんかと遊び歩いてる。
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