■1-なんとなく[季節の移ろいとともに]

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ユーザー名やキャスト名など事あるごとに名前が必要になるが、さすがに桐田(きりた)真矢(まや)という本名でそういった趣味の活動をするのは抵抗があった。 けど、わざわざ考えるのも面倒で、俺は『山田(やまだ)(りき)』という、単純な名前をつけた。そう、本名を逆さまに読んだだけの回文だ。 美奈姉さんが自分が作っているボイスドラマや、友だちが作っているゲームのキャストに積極的に誘ってくれて、さらに遠慮のない意見をくれるので、発声も演技もどんどん上達するのがはっきりと自覚できた。 そして、上達するほどに声での演技にもハマっていった。 その甲斐あって、最近は年齢のわりには落ち着いいて、良く響く男らしい声だと言ってもらえるようになった。 天賦の才というやつには敵わないだろうが、努力した程度には自信がある。 だから、そんな努力など何も知らない有家川が、その成果である俺の声を好きだと思ってくれていたら……きっと、これまでの学校生活では感じたことのない喜びを得られる気がするんだ。
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