■2-そして[知るということ]

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美奈姉さんが作っているボイスドラマはファンタジーやSFメインだが、俺に()らせるために持ってくる企画に恋愛もののゲームなどが混じるようになった。 姉さんにはそういうのを作る知り合いが多くいるらしい。 俺は恋愛などしたことがないし、誰かを甘いセリフでメロメロにしたいと思ったこともない。 正直、恋愛ものじゃ演技をしていてもあまり役に入り込めなかった。 けど、美奈姉さんのアドバイスを参考にしながらやっているので、制作サイドの反応はいい。 それに、キャラに入り込めないことが逆に、表現の創意工夫にもつながっていた。 今はまだ、これでいいのかもしれない。 『恋というのは抑えきれない衝動』らしいので、色恋に全く興味のない俺だって時期がくれば自然と色気づくんだろう。 知ったかぶりは一番いけない。 恋を知りたいからと『恋に恋するお年頃』丸出しで、無理して誰かとつき合ったりするような愚かな真似はしたくない。 同級生にはつき合っただ別れただ、そんな話をしょっちゅうしている連中もいる。 無関係な俺の耳にまで入ってくるほどに。 牟田(むた)有家川(うけがわ)もその一人だ。 沢木(さわき)は……いい奴のようだけど、あまり女子受けは良くないようだ。 有家川は、やっぱりモテる。 背が高くて派手で、鋭いけどぱっちりした目は魅力的だ。 大人っぽい顔をするかと思えば、裏表のない子供みたいな顔して大きな声で笑ったりする。 漏れ聞いた話だと、かわいい子に言寄られ、そのとき付き合ってる人がいなければ付き合うといった調子のようだ。 恋愛経験はずいぶんと豊富そうだけど、別れたという噂が出てもあまり落ち込んでいないあたり『恋に恋するお年頃』を地で行ってるんじゃないか……なんて思うのは、ひがみだろうか。 牟田はなんだかフラフラしている印象だ。 最近また別れたらしい。 朝っぱらから大きな声で『フラれちゃったよ~!』などと叫んでいた。 それ以降、沢木や有家川にやたらと抱きついているのを目にする。 先日初めてBLゲームの声をやったから、こんなどうでもいい事を気にしてしまうんだろうか。
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