0人が本棚に入れています
本棚に追加
人は死ぬ間際、走馬灯を見るそうだ。
幼少期からの楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、怒りで震えたこと、それらが胸からいっぺんに溢れんばかりに頭の中を流れるらしい。
私は死んだことがないからわからないが。
わからないのに語れるのもおかしな話だが、私の目の前にいる死んだ彼が最初にそう言ったのだからそうなのだろう。
そう、私の愛しい彼は2週間前に死んでしまっている。
のんびり屋な彼が漕ぐ自転車と赤信号を無視したバイクが正面衝突をした。
彼の自転車はぐちゃぐちゃで彼も意識不明の状態から病院に搬送された後、息を引き取った。
バイクの運転手も重体で生死をさまよっているようだ。
そんな報告を彼のお気に入りの匂いで満たされた2年間過ごした私たちの部屋で聞かされた。
私はまず、彼の私物はどうしようと考えていた。
考えながらいつものように彼の分も料理を作り、椅子に座って本を読んでいた。
彼の死を伝えに来た彼の母親がそばで泣いているのも構わずに、ただただページをめくっては考えた。
私は現実を受け入れられなかったのだ。
しばらくそんな状態だったが、本に垂れるしずくを見てやっと現実に戻って来た。
それからはあっという間だった。
彼の葬式を済ませ納骨し、1人部屋へ戻って来て放心状態。
彼の匂いのするものがあればそれをかき集めてわんわん泣いた。
たくさん泣いた後眠くなった私は、彼のいないベッドに横になると5分で眠りについた…はずだった。
何気なく目を閉じて開けるとそこは、真っ暗闇で自分の部屋ではなかったのだ。
すぐにこれは夢じゃないと思った。
理由は簡単で手の甲を叩くと痛覚があったからだ。
混乱した私は真っ暗闇を歩き回り焦った。
すると後ろからずっと聞きたかった愛しい彼の声がしたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!