小便のチカラ

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   § 「暗くてわかんないね」  太陽なんかなくてもこまらないが、月はあってくれないと便利が悪い。 「かい中電灯使えよ」 「そっか」  徳吉仁朗(とくよしじろう)=にょろが手にしていたそれで、おれたちは教室のわき──グラウンドのすみっこへならべられているアサガオを照らした。 「風が気持ちいね」  だれかのハチの本葉(ほんば)が、気持ちいいとうわさの夜風にゆれている。なんだかむかついてしょうがなかったおれは、ばかとかくそとかかれちまえといった言葉をつばといっしょにそいつへはきつけてやった。 「これいる?」  これ=人の顔がかかれたカンコーヒー。 「そんなくそまずいものいるわけないだろ。どうしたんだよ」 「自治会長のおじさんにもらった。早くうちへ帰れって。さっき」  そういわれて夜遊びをしているにょろ。ろくなガキじゃない。まあ、おれも人のことはいえないが。 「樫野(かしの)くんのはすごいね。なんかもう、つぼみっぽいのがふっくらしてる」 「ばかみてえに成長しやがって。めんどうみてるやつがでかいとアサガオもでかくなんのかよ、くそ!」  うらやましいぐらいに育っている樫野のアサガオ。学級委員長や副委員長のもいい感じに育ってやがる。ほかのやつらのもだいたい順調だ。それなのにおれのだけはそうじゃない。葉っぱどころか芽もなにもない、土だけのハチだ。 「まとめてふみつぶしてやるか」 「ぼくのはやめてね」  にょろが自分のアサガオのどこか一点を見つめながらいった。花でもさきそうなのか。おれはにょろの顔のすぐわきまで自分の顔を持っていって、その目が見ている先に自分の目玉を動かしていった。 「ちっ、なんだよ」  虫だった。一枚しかない本葉の上へのっかってカマを振りあげている、どう見ても弱っちいカマキリ。にょろが吹きかける息によろけながら、それでも前足をぶんまわしているこしゃくなそいつを、おれはデコピンですっ飛ばしてやった。 「あーあ。せっかくがんばってたのに」 「カマキリなんかどうだっていいだろ」 「そうだったね」  おれはにょろの手からかい中電灯を取りあげ、自分のハチの前へ移動をした。 「おれのやつ、ちゃんと種うまってんのかな」  土の表面をちょっとだけ指で引っかく。
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