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何とかしなくては。
止めなくては。
どこかにつかまらなくては。
逃げなくては。
周りの音が消えた。
往来する車のエンジン音、商店街に流れる音楽、人々の笑い声やざわめきも、全部。
景色が消えた。
遠くに連なる山々、目前のビルやマンションや学校、間を縫うように植えられている街路樹、店の看板、――全部。
中央分離帯を超え、真っ正面から突っ込んでくる頑丈そうな大型トラック。
こっちの速度と加算して、倍速で迫ってくる、鬼瓦にも見えるその車体。
何とかしなくては。
止めなくては。
どこかにつかまらなくては。
逃げなくては。
山ほどの思考が点滅しては流れた。
そんなに忙しく頭が回るのに、トラックが近づくまではとてつもなくゆっくりだった。
そして、真っ暗になった。
次に目覚めたとき鏡に映った顔には、29歳にして総白髪の頭が乗っていた。
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