誰も知らないわたしの秘密。

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 そーっとふすまを開けると、布団が敷いたままだ。  わたしが急にお腹が痛いと言い出したので、お母さんも自分のお布団を敷いたままで出かけたみたい。部屋の真ん中で縦長に窮屈そうに横たわった布団。それをひょいと避けながら進む。少しでも位置がずれたらわたしが部屋に入ったことがバレてしまう。  黒い箱。木で出来ていて、黒く塗装された真四角のその箱を目にした瞬間、急激にドキドキが止らなくなった。  咄嗟に後ろを振り返った。 「って、いるわけないじゃーん」そう言いながらもホッとしている。  その黒い箱までは二歩半で手が手の届く位置に。  息をのみ──。  そーっと留め金を横にズラし、ゆっくりと、ゆっくりと開ける。壊してしまったら大変だ。完全に開け切ると、目の前にはわたしが居た。  粉がついたようになったそれを服の袖で綺麗に拭く。 「ハァ~~~~っ」  わたしは鏡を拭く。 「ハァァ~~~~っ」  そして、また拭く。 (これが…………お化粧箱…)  ドキドキが止らない。  中のメイク道具は、全部は分からない。雑誌や、友達から聞いた情報で、形状やローマ字を読みながら、一つずつ手に持って確認。  ”下地”の文字が書かれたチューブから、液を手の平に落とす。  一度手の平で伸ばしてから、それを顔に塗った。ひんやりした。  鏡のわたしはテカテカしている。 「つけすぎ……たの? かなぁ……」  お母さんがお風呂あがりに顔をパンパンするように、わたしも手の平で顔を叩き抑えた。次にBBクリームを手にして、思い出す。  コンシーラと書かれたものを、目元や、鼻の横、あとは傷……なんて、わたしには無い。傷隠しや、ほうれい線、クマ、目元の弛み、シミ、シワなんかに使う物らしい。わたしには必要なさそうな物だったけど、一応付けてから、指で押さえて軽く叩く。 「なんか……白いパンダみたい……」  所々白くなりかけたので、伸ばしてみた。  次はBBクリームを顔全体に塗った。一気に浮いた白い肌になった。元々わたしは色白な方だと言われているけど、それとは違う白さ。  ”ガタッ!”  一瞬、顔が強張った。  寝室の頭側に積み重ねられた生活雑誌に、わたしの左足が当たったようだ。  女の子座りを伸ばしたような姿勢だったので、正座に変えた。無意識にいつでも隠れられるようにそんな中途半端な体勢で鏡を見ていたんだ。
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