誰も知らないわたしの秘密。

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 ペンタイプのを、わたしは、目の外側に走らせる。  瞼を上に引っ張り上げて、外側のフチの内側から塗る。下まつ毛も塗る。そして目の内側のフチ部分も、瞼を上げて大袈裟にならないようにラインを引いた。  仕上げに鉛筆タイプのアイラインで整える。 「完璧!!」  あっ──マスカラが乾ききっていない内に瞬きをしずぎた……。まるで下まつ毛の下に、もう一つまつ毛があるみたいだ。  わたしは変に汚く伸びないように、ティッシュでそれを拭き取る。  完成~。  ◇  それが、わたしの初めてのお化粧体験。  わたしがまだ学校へ、すっぴんで通っていた頃の、楽しくもドギマギした、あの思い出──。  そのあと、どうしても、お化粧をした姿で外を歩きたくなって、ほんの近く、家の周辺から少し行ったコンビニの手前まで歩いて、そそくさと戻って来た。  途中、クラスメイトの田中君に会った。わたしをじーっと見ていた。  その淡い思い出を、その当時の心境と重ね合わせながら思い出していると、給食当番が教室に入ってきて、わたしは懐かしむのをやめて、トレーを持って、並びに向かった。 「今日も多め? いつもありがとう」 「だから、前から言ってるけど、お前のお姉ちゃんに一回だけで良いから会わせろよ~。なっ?」 「そのうちねー」  わたしが次のスープ類の担当へ移動すると、まだ後ろで田中君が言っていた。 「もう何年、お前の姉ちゃんは行方不明なんだよぉ~。ったくぅ」  どうも田中君は小学生の頃に、わたしに似た女の子を見かけたみたい。いきなり「お前って、お姉ちゃんとか居る?」なんて朝から意気込みながら聞いてきて、わたしが「居るけど、なんで~?」そう聞いたら「いーからー。俺、一回だけそれとなくし話とかしたいから、今度家に呼んでくれよ」なんて言ってた。  どうして子供の田中君が高校生のお姉ちゃんと、そんな風になってるの? って聞いたら、田中君は「違う! 俺らの一個上だよ、多分」  お前、お姉ちゃん二人居るの? だって。  わたしはね。もうその頃と違うんだよ? 今はね、薄メイクも覚えたんだよ?  ま、知らないだろうーけど♪  ぼくの身体の秘密なんて。  今度はちゃんと忘れずに、グロスも塗らないとね♪
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