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「桜瑛、支度を」
告げるのと同時に、式神である厳木が姿を見せて
潔斎装束を運んでくる。
その着物を、桜瑛が一枚ずつ着付けていく。
「桜瑛、腕を貸してくださる?」
私の言葉を受けて桜瑛はその腕をゆっくりと差し出す。
その腕にゆっくりと手を翳し、
私を介してカムナの呪印を刻み込む。
これで願いは叶うから。
穏やかにその場に身を添わせられる。
宝さまは私のもとに戻ってきてくださる。
私だけの元に……。
呪印を刻み込んだ後、
私は自らの髪に鈴を通して桜瑛の腕に括り付ける。
「桜瑛、いつも有難う。
私の代わりに焔龍と戦って頂いて。
この鈴と髪には私の希望と祈りが詰まっています。
どうぞ、月姫の加護も火綾の巫女へ……」
想いとは裏腹に思ってみないことをさりげなくしてしまう。
自分自身でもびっくりするほどに。
桜瑛はその鈴にゆっくりと手を触れて、
ゆっくりと手を翳してにこやかに微笑んだ。
「姫様の御心(みこころ)有難く頂戴します」
カムナの呪印を隠す……偽り鈴。
その鈴の呪が、やがて桜瑛を蝕み崩壊させ、
私の願いを全て聞き届ける。
その為の布石となる……要。
終わりの見え始めた今、
心はとても穏やかで柔らかに手すら差し伸べられる。
「桜瑛、今度は一緒に食事を。
本当は今日にでもご一緒したいのに、
今日は禊にお互い入らないといけないもの。
火綾の巫女もまた秋月の家を守る要。
私が特別扱いされて貴女が私の世話係のみで
終わらせるなんて理不尽ですわ。
貴女も秋月に置いては私と同じように扱われるべきです。
これから後は一緒に朝食を。
私も……一人で食するのは寂しいですから」
心とは裏腹に再び紡ぎたす言葉。
「月姫様、勿体なきお言葉いたみいります。
姫様のお言葉に甘えさせて頂きたいと思います」
「では、お先に……」
厳木に手を引かれながら、
長い布を引きずって奥の月姫専用の潔斎場へと赴く。
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