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その時は足音もなく忍び寄る。
支度が出来た私と桜瑛は、
それぞれの車に乗り込んで松谷へと向かう。
その後ろを影に紛れる様につけるカムナの一部分。
車の中で静かに目を閉じ乍ら、
カムナが満ちているのを感じていた。
車は秋月の屋敷から何時間もかけて、
山奥の小さな祠の前へと辿り着いた。
チリンチリンと鈴を鳴らしながら近づいてくる
火綾の巫女の足音。
運転手によって後部座席のドアが開けられて、
膝を折る桜瑛が手を差し伸べる。
「姫さま、松谷でございます。
どうぞ、降り立ちくださいませ」
あえて車のパワーウィンドウをおろして、
桜瑛へと言葉をかける。
「桜瑛。
瘴気(しょうき)が強く私はこの地を踏めません。
まずは……浄化の焔の儀を」
「かしこまりました」
静かに頷くと、桜瑛は次々と指示をして
儀式の仕度を始める。
そんな様子を窓越し見つめながら、
運転手に合図をして、ドアを閉めさせるとそのまま
窓も閉めて、シートに持たれながら再び目を閉じた。
目を閉じた瞼には、カムナが教えてくれる
桜瑛の状況が映し出されていた。
*
祠の奥。
一族のものが用意した篝火に囲まれて、
結跏趺坐(けっかふざ)のまま座り込む桜瑛。
ゆっくりと印を組み、指の形を限られた順序で
組み替えていく。
桜瑛が組む印に惹かれるように、
語り合うように、炎は柔らかに揺らめき続ける。
その後、鈴を鳴らしながら舞い踊りながら
淀みを清めていく桜瑛。
舞に誘われるように、大きく吹きだした炎は
祠を包み込むように広がって、やがて桜瑛の描く最後の印と共に
その姿を消した。
その後バランスを崩す桜瑛を感じながら、
もうすぐ再び、姿を見せる桜瑛を感じていた。
*
「桜瑛、ご苦労様。
私も参りましょう」
再び迎えに来た桜瑛に向かって、
声をかけると私は車からゆっくりと外に歩み出る。
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