6.発動

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その時は足音もなく忍び寄る。 支度が出来た私と桜瑛は、 それぞれの車に乗り込んで松谷へと向かう。 その後ろを影に紛れる様につけるカムナの一部分。 車の中で静かに目を閉じ乍ら、 カムナが満ちているのを感じていた。 車は秋月の屋敷から何時間もかけて、 山奥の小さな祠の前へと辿り着いた。 チリンチリンと鈴を鳴らしながら近づいてくる 火綾の巫女の足音。 運転手によって後部座席のドアが開けられて、 膝を折る桜瑛が手を差し伸べる。 「姫さま、松谷でございます。  どうぞ、降り立ちくださいませ」 あえて車のパワーウィンドウをおろして、 桜瑛へと言葉をかける。 「桜瑛。 瘴気(しょうき)が強く私はこの地を踏めません。  まずは……浄化の焔の儀を」 「かしこまりました」 静かに頷くと、桜瑛は次々と指示をして 儀式の仕度を始める。 そんな様子を窓越し見つめながら、 運転手に合図をして、ドアを閉めさせるとそのまま 窓も閉めて、シートに持たれながら再び目を閉じた。 目を閉じた瞼には、カムナが教えてくれる 桜瑛の状況が映し出されていた。 * 祠の奥。 一族のものが用意した篝火に囲まれて、 結跏趺坐(けっかふざ)のまま座り込む桜瑛。 ゆっくりと印を組み、指の形を限られた順序で 組み替えていく。 桜瑛が組む印に惹かれるように、 語り合うように、炎は柔らかに揺らめき続ける。 その後、鈴を鳴らしながら舞い踊りながら 淀みを清めていく桜瑛。 舞に誘われるように、大きく吹きだした炎は 祠を包み込むように広がって、やがて桜瑛の描く最後の印と共に その姿を消した。 その後バランスを崩す桜瑛を感じながら、 もうすぐ再び、姿を見せる桜瑛を感じていた。 * 「桜瑛、ご苦労様。  私も参りましょう」 再び迎えに来た桜瑛に向かって、 声をかけると私は車からゆっくりと外に歩み出る。
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