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松谷で桜瑛に託されるように式神によって連れられたのは、
宝さまの縁に繋がれた屋敷。
「到着なされたわ。
秋月の姫、お加減は?」
そう言って真っ直ぐに私を捕える存在。
「私は徳力暁華【とくりき きょうか】。
桜瑛の親友であり、徳力の【さくら】よ。
貴女のことは、私が託されたわ。
さっ、安心していいわ」
そう言って安心させようと力強く微笑む存在は、
眩しすぎて真っ直ぐに見据えることが出来ない。
その直後、
私の中に再びカムナの気配が広がっていく。
*
全ては姫様の望みのままに……。
*
ただ不気味な優しさで、その言葉だけを紡ぎ続ける存在。
カムナの優しさが恐怖へと変わっていくたび、
私の中から黒いものが溢れだしていく。
真っ暗な暗闇。
この場所に引きこまれて、
どれほどの時を過ごしたのだろうか。
周囲をどれほどに見渡しても、
そこには灯り一つ射しこまない。
僅かでも、この暗闇を照らすものがあれば。
周囲をどれほどに見渡しても、
そこにあるのは闇ばかり。
黒い影がどんよりと空間を包み、…
冷たく凍りついた世界の中で次々と手を差し伸べていくカムナの幻惑。
宝さまの名を語り紡がれていく……甘い声。
全ては……私が招いたのじゃな。
指も足も手も全て凍りついて
すでに感覚がないこの世界で……
私は独り朽ちていくのか。
どれほどにカムナを拒絶しようとしても
カムナと契約を交わした私の意識は、
自我が抵抗するまもなく成すがままに侵されていく。
あの古の時代、宝さまが私に笑いかけてくれた
その全てが……消えていく……。
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